新たな課題

兵器化された船舶:EU、ロシアの「シャドーフリート(影の艦隊)」の脅威に警鐘

欧州の指導者たちは、ウクライナの同盟国に対するロシアの「ハイブリッド戦争」と呼ばれる妨害工作の可能性が高まっていることに懸念を強めている。

4月、ドイツのリューゲン島沖に停泊するタンカー、エヴェンティン号。このタンカーは、欧州連合(EU)の制裁対象となっているいわゆるロシア「シャドーフリート(影の船隊)」に属する150隻以上の船舶の1つである。当時、ロシアのウスト・ルガからエジプトのポートサイドへ向かう途中で、ドイツ税関当局によって拿捕された。[Stefan Sauer/dpa Picture-Alliance via AFP]
4月、ドイツのリューゲン島沖に停泊するタンカー、エヴェンティン号。このタンカーは、欧州連合(EU)の制裁対象となっているいわゆるロシア「シャドーフリート(影の船隊)」に属する150隻以上の船舶の1つである。当時、ロシアのウスト・ルガからエジプトのポートサイドへ向かう途中で、ドイツ税関当局によって拿捕された。[Stefan Sauer/dpa Picture-Alliance via AFP]

ロバート・スタンリーのレポート |

ロシアのいわゆる「シャドーフリート」(制裁を回避するために国際的基準を逸脱して活動している石油タンカー)が、偵察や通信傍受、その他の隠密活動を行っている可能性があると、欧州諸国の指導者たちが警戒を示している。

こうした疑念は、21日にポーランドのドナルド・トゥスク首相がX(旧Twitter)への投稿で、ポーランドとスウェーデンを結ぶ海底送電ケーブル付近でロシア船が「不審な動き」を行っているのが目撃されたと述べたことを受け、さらに強まった。

前日には、欧州連合(EU)が新たな制裁措置を発表し、西側諸国による石油輸出価格上限を回避するロシアの取り組みの一環として、342隻のタンカーを特定した。

これらの船舶は現在、EU域内の港湾への入港が禁止されている。

シャドーフリート(影の船隊)は所有者が不明で便宜置籍船を利用し、追跡システムを無効にして活動していることが多い。EUによるシャドーフリートへの圧力によって、ロシアの原油輸出は76%減少し、3年に及ぶウクライでの戦争への資金調達能力が大幅に低下した。

「危険な」時代

とはいえ、制裁だけではシャドーフリートの活動を阻止することができず、欧州の指導者たちは、ウクライナの同盟国に対するロシアの広範なハイブリッド戦争の可能性を ますます懸念している

ポーランドのヴワディスワフ・コシニャク=カミシュ国防相はトゥスク氏の発言を受けた記者会見で、「これは、我々が生きている時代がいかに危険であるか、そしてバルト海の状況がどれほど深刻であるかを示している」と述べている。

ポーランドの航空機がその船舶に対し、監視されていることを警告すると、その船はロシアの港へ向けて出発したと、コシニャク=カミシュ国防相は語った。

「スウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に加盟して以来、バルト海は重要な海域となり、最も多くの事件が発生する場所となった。中でも特に多いのは、通信ケーブルの切断や妨害工作に関連する事件だ」と彼は付け加えた。

ポーランド海軍の高官はロイターに対して、問題の船舶はサン号であり、アンティグア籍で航行していたシャドーフリートのタンカーだと語った。

こうした事件は、孤立した出来事ではない。

フィンランド海軍は昨年12月、フィンランド・エストニア間の海底送電ケーブルと4本の通信ケーブルを錨(いかり)で切断した疑いのあるタンカーを拿捕した。フィンランド当局は、これはシャドーフリートによる作戦の一環とみている。

その1か月前にもドイツとフィンランド、リトアニアとスウェーデンを結ぶ通信ケーブルが切断された同様の事件で、中国籍の船舶が責任を問われた。

2023年10月、ロシアから航行中の香港籍のコンテナ船ニューニューポラーベア号が錨を引きずってエストニアとフィンランドを結ぶバルト海のガスパイプラインと通信ケーブル2本を損傷した。

ロシア軍戦闘機の低空飛行

こうした出来事は、バルト海の緊張を高めている。バルト海は8つのNATO加盟国と国境を接しており、ロシアの唯一の通年運用可能な北方の港湾へのアクセス路でもある。

先週、エストニアのマルグス・ツァクナ外相は、同国海軍がバルト海でシャドーフリートの船舶ジャガー号を拿捕した直後、ロシア軍戦闘機がNATO領域の領空を侵犯したと述べた。その船は国籍旗を掲げず、保険にも未加入だったという。

船舶が停止させられていた際、ロシアの戦闘機が上空に現れた。その後、ジャガー号はすぐにロシアの港へ向けて進路をとった。

「その戦闘機はNATO領空を約1分間侵犯した。これは非常に新たな事態だ」とツァクナ外相はトルコのアンタルヤで開かれたNATO会合で述べ、NATOの戦闘機が緊急発進して迎撃に向かったことも指摘した。

「この事例は、ロシアがウクライナでの軍事行動だけでなく、より広範囲にわたって深刻な脅威を及ぼしていることを示す新たな証拠である」と彼は別の声明で述べた。

ロシアはその1週間後、エストニアのシラマエ港を出港したリベリア船籍の貨物船「グリーン・アドマイア」を拿捕し、報復措置に出た。モスクワは、同船が航路を航行中にロシアの領海に入ったと主張した。ロシアは2日後に同船を解放した。

潜水艦によるスパイ活動

懸念はバルト海にとどまらず、他の地域にも広がっている。

4月に、英国紙タイムズは、ロシアが大西洋での隠密活動を強化しており、 大西洋にスパイ潜水艦や専門の調査船を配備して水中センサーを設置していると報じた。これはイギリスの原子力潜水艦艦隊の監視が目的であるとみられる。

シャドーフリートは、ウクライナの同盟国が設定した1バレル60ドルの価格上限を超えてロシア産原油を販売する際、中心的な役割を果たしている。これらの船舶は積荷や目的地を隠すことで、制裁を回避しようとする買い手にロシア原油を販売している。

シャドーフリートは主に老朽化したタンカーで構成されている。多くは中古で購入され、ガボンやクック諸島など、制裁や標準的な安全規則を施行しない管轄区域の便宜置籍に登録されている。アラブ首長国連邦やセーシェルに拠点を置く企業が所有しているケースが多く、ロシア国営の海運会社ソフコムフロートが所有するケースもある。

これらの船舶の多くは監視をかわすために、衝突を防ぐためや船の動きを追跡するための義務付けられた識別信号(AIS)を意図的に無効にしている。そうすることで、その活動はさらに不明瞭になっている。

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