戦略的課題
説明のつかないドローン飛行、ベルギーで不安広がる
ドローン目撃が頻発しており、専門家が関与しているとの強い疑念が生じている。その矛先はほぼ必然的にロシアに向かっている。

AFP発 |
軍基地、空港、原子力発電所―次々と報告される正体不明のドローン飛行に、ベルギー国内の緊張が高まっている。こうした不可解な目撃事例が相次ぐなか、同国がロシアによる標的とされているのではないかとの懸念が広がっている。
敏感な施設周辺でのドローン活動に関する報告は先月、国内複数の軍基地付近で不審なドローンが目撃されたことをきっかけに相次いで明らかになった。
こうした目撃は、すでに欧州全体が警戒を強めていたさなかに起きた。ポーランド上空ではロシア製ドローンが撃墜され、デンマークやドイツでは正体不明のドローンが空港の運航を混乱させていたのだ。
今やこうした事態は加速の一途をたどっており、ベルギー最大の空港では航空便の運航が一時停止され、政府は緊急協議を開催。NATO加盟国も支援のため対応を開始している。
これまでのところ、ベルギー当局は誰が具体的に責任を負うのかについて、明言を拒否しているか、あるいは明らかにできないでいる。
連邦検察当局は、17件の事案について現在捜査中であると述べている。
検察当局は、「現時点では、単に規則を破っている地元のドローン操縦者なのか、それとも国家主体による不安定化工作なのかを区別することが依然として困難なケースが多い」と述べている。
しかし、ドローンの目撃が頻発していることから、専門家の関与を強く疑う声が高まっており、その矛先はほぼ必然的にロシアに向かっている。
ロシアによるウクライナ侵攻を巡る緊張が高まるなか、欧州諸国はモスクワに対し、「否認可能なグレーゾーン」で展開される破壊工作、サイバー攻撃、干渉行為といった「ハイブリッド戦争」のエスカレートを非難している。
現時点でベルギーが標的とされているのには、明らかにいくつかの理由がある。
現在、欧州連合(EU)は、ベルギーに保管されている凍結中のロシア中央銀行資産を原資とする、ウクライナ向けの新たな1400億ユーロ(約1620億ドル)の融資枠を解禁するかどうかを協議中だ。
ドローン目撃騒動が起きる前から、ベルギー政府はこの措置がモスクワの逆鱗に触れ、同国が標的となるリスクを高めかねないと警告していた。
そしてそうした懸念は、最近のドローン活動によってさらに強まっている。
「これは明らかに、ベルギー国内に不安と恐怖を引き起こし、『凍結資産に手を出すな』とけん制するための措置だ。これ以外の解釈はあり得ない。」 ドイツのボリス・ピストリウス国防相はこう述べた。
「それは誰の目にも明らかであり、ベルギー側も同様に受け止めている。」
「国民の不安を煽る」
アナリストらは、ドローンが敵を揺さぶるための低コストかつ効果的な手段だと指摘している。
「意図的に特定地域をドローンで飛来させることは、ほぼ常に国民の不安を煽り、ひいては国家を不安定化させる目的で行われます。加えて、相手がどれほど備えを整え、どのような装備を備えているかを偵察する手段としても使われます。」 こう語るのは、ドイツの重要インフラに関する作業部会に所属する安全保障専門家、マヌエル・アトゥーグ氏だ。
「このようにして、航空交通の混乱などを通じて実際に経済的損害をもたらすことも可能です。」
ドローンによる脅威を一層深刻にしているのは、当局がこうした小型飛行体を特定・対処する上での困難さだ。ドローンはほぼどこからでも短時間で即座に発進可能であり、その出所を突き止めることは極めて難しい。
「長年にわたり、私たちはあらゆる場所でドローンの目撃情報を受けてきました。たとえばドイツだけでも、毎年100件以上ものドローン目撃が空港周辺で報告されています。」 こう話すのは、欧州対外関係評議会(ECFR)の専門家、ウルリケ・フランケ氏だ。
「報道でその話題が増えると、私たちの関心も自然とそこに向かいやすくなります。これは、私たちの国を不安定にさせようとする者たちの思惑にまさに嵌まる結果になってしまうのです。」と彼女は述べている。
「ただ、現在は特に大型ドローンや重要インフラ上空での目撃が増加しているという事実もあります。」
ドイツや英国を含むベルギーのNATO同盟国数カ国が、デンマークの際と同様に、対応支援のため専門チームと装備を派遣している。
テオ・フランケン国防相は現在、対ドローン防衛システムの整備に向け、まずは5,000万ユーロ(約5,800万ドル)を投入するよう働きかけている。
欧州連合(EU)も独自に対ドローン防衛網の構築を進めているが、その整備は東部加盟国に重点が置かれるとみられ、完成までには数年を要する見通しだ。
「100%の安全を確保することはできません。」とフランケは述べた。
「とはいえ、空港や原子力発電所、液化天然ガス(LNG)ターミナルなど、システムを導入すべき重要な拠点は明確です。これは決して難しい話ではありません。」