防衛動向
ロシアを襲う三重の人口統計上の打撃 - 戦争、死亡率、国力の衰退
数万人と推定される高い軍事的死傷者数は、ロシア経済の人口統計上の主要層とされている若い労働年齢の男性層に不釣り合いに大きい影響を与えている。
![2025年10月18日、サンクトペテルブルクのペトロパヴロフスク要塞ナルイシキン砦での衛兵交代式において、式典を執り行うレニングラード軍管区本部のロシア名誉衛兵。[Olga Maltseva/AFP]](/gc7/images/2025/10/29/52552-sold-370_237.webp)
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ロシアは数十年にわたって人口統計上の危機に悩まされている。同国はソビエト連邦の崩壊以降、継続的に低い出生率と、驚くほどに高い死亡率、特に男性の死亡率に直面している。この慢性的な問題により、長年にわたりロシアの経済面と社会面の安定が損なわれてきた。
ウクライナ戦争によりこの問題は著しく悪化し、人口統計上の最も重要な層である若く健康な男性が失われた。結果として、国家は経済的制約を強いられ、外国勢力への依存度を高めている。
ロシアは、地政学的な野望を追求する中で、戦争により人口が減少したため、長期的な国力を損ない、世界的な影響力が乏しい地域大国になりかねない危機に直面している。
ウクライナ戦争により、ロシアに深刻な人的資源の空白が生じた。数万人と推定される高い軍事的死傷者数は、ロシア経済の人口統計上の主要層とされている若い労働年齢の男性層に不釣り合いに大きい影響を与えている。
戦争と労働力の流出
この損失に拍車をかけているのが、高度な教育を受けた専門家の大規模な国外流出だ。その多くは徴兵を避けるため、あるいは戦争の影響で生じる経済面、政治面における情勢不安から逃れるためにロシアを離れたのである。この「頭脳の流出」により、技術、医療、工学といった重要分野では深刻な人手不足が続いている。
人的資源の枯渇はすでにロシア経済に大きな打撃を与えている。労働力が減少すると生産性が低下し、技術革新も停滞する。しかしロシア政府は戦争を持続させるため、人的資源を軍産複合体につぎ込んでいる。医療や教育などの民生部門には資金が行き渡っておらず、長期的な不況とインフレの上昇につながりつつある。
ウクライナ戦争以前から、ロシアは男性の死亡率が高いという深刻な死亡率の格差に直面していた。その原因として、アルコール依存症、喫煙、予防可能な疾病が挙げられる。戦場での犠牲者により、この不均衡は悪化の一途をたどり、人口の性別・年齢の構成はより一層歪められた。その結果、人口統計上の危機が生じている。回復が可能だとしても、その回復には何世代もの年月を要するだろう。
ロシアの人口が減少したことで、ロシアの軍事戦略と地政学的戦略も変化している。若年男性の減少が続いているため、世界中に展開できる大規模な通常戦力を維持することがますます困難になっている。ロシア政府は兵員を確保するため、徴兵と民間軍事請負業者に依存してきたが、これらの対策はその場しのぎにすぎず、長期的な人的資源の不足を解決することはできない。
ロシアは、通常戦力の縮小に伴い、自国の安全保障と国際的地位を維持する最終的な手段として核兵器への依存を強めている。ロシアの通常戦力を誇示する能力が薄れていく中での、この戦略的抑止力に頼る姿勢は、すべての紛争でリスクが増大することを意味する。
経済面においては、ロシアの人口統計上の脆弱性と地政学的脆弱性により、中国と従属的な協力関係を結ばざるをえなくなっている。外国投資と経済面での安定を必要とするロシア政府は、中国への依存度をますます高めており、短期的な経済的支援を得るために、長期的な戦略的自律性を犠牲にしている。
衰退しつつある国家
一方でロシアは内部のジレンマに直面している。労働力不足を解消するため、中央アジアから大量の移民を受け入れることに舵を切ったのだ。これは労働力不足を補うのに有効だが、すでにナショナリズムや外国人嫌悪に直面しているロシアに、社会的緊張や政治的緊張も生み出すことになる。
ロシアの人口統計上の危機は、さまざまな面において、自ら招いた結果である。ウクライナで犠牲を伴う長期にわたる戦争を続けるというロシア政府の判断は、すでに深刻だった状況をさらに悪化させた。ロシアは核兵器とエネルギーの影響力によって今後も強大な軍事的脅威であり続けるだろう。しかしながら、世界規模で通常戦力を誇示し、維持する能力は着実に低下している。
長期的には、ロシアの人口統計上の脆弱性と経済的脆弱性により、ロシアの地位は地域大国として定着するにとどまり、近隣諸国に影響力を及ぼすことはできても、世界的な関わりを保つためには中国のような国外のパートナーにますます依存せざるを得なくなる。
ウクライナ戦争は、ロシアが大国としての地位を盤石にすることを意図したものだったのかもしれないが、結果的にロシアの衰退を早めることになったのである。