戦略的課題

米国の人口統計上の優位性 - 移民が衰退に対する秘密兵器といえる理由

移民の安定的な流入は、労働力の補充だけでなく、国民の平均年齢を低く保ち、極めて重要な長期にわたる地政学的優位性をもたらす。

ニューヨーク港の自由の女神像の風景。ここは、何百万人もの移民が米国に到着した場所だ。[米国国立公園局]
ニューヨーク港の自由の女神像の風景。ここは、何百万人もの移民が米国に到着した場所だ。[米国国立公園局]

Global Watch発 |

米国は、世界の多くの先進国と同様に、低出生率と高齢化の課題に直面している。

ベビーブーマー世代の退職の波により、米国の社会的セーフティネットがひっ迫している。一方で出生率は人口置換水準を下回る状態が続いている。しかし米国には、主な競争相手国である中国、ロシア、日本、そして欧州諸国とは異なり、継続的な移民流入という独自の人口統計上の優位性がある。

移民の安定的な流入は、労働力の補充だけでなく、国民の平均年齢を低く保ち、極めて重要な長期にわたる地政学的優位性をもたらす。しかしこの優位性には注意すべき点がある。増え続ける社会福祉予算による財政危機に対応できなければ、米国の人口統計上の回復力を活かす能力が損なわれ、世界のリーダーとしての地位が脅かされる可能性がある。

移民は、米国の人口統計上の安定のための基盤だ。他の主要国が人口減少や好ましくない労働者と退職者の比率に直面する中で、米国の労働力は移民によって安定して補われている。そのため、米国国民の平均年齢は低く保たれ、労働者と退職者の比率も他国よりもバランスの取れた状態を維持できており、高齢化社会の経済的負担が軽減されている。

2025年4月1日、ドイツのタワー・バラックスのタワービュー・カンファレンス・センターで実施された帰化式典において、現役軍人とその家族を帰化させる特別プログラムの一環として、22か国から32人が新たな米国市民として迎えられた。[米国陸軍]
2025年4月1日、ドイツのタワー・バラックスのタワービュー・カンファレンス・センターで実施された帰化式典において、現役軍人とその家族を帰化させる特別プログラムの一環として、22か国から32人が新たな米国市民として迎えられた。[米国陸軍]

2050年までの見通しでは、米国は人口が大幅に増加する数少ない先進国の一つとなるとみられている。中国やロシアが直面する人口減少とは明らかに異なる状況だ。

経済的活力

移民とその子どもたちは、起業家精神や技術革新を牽引することが多く、主要な技術分野で米国の優位性を維持している。シリコンバレーのスタートアップ企業や人工知能の飛躍的な発展に至るまで、移民が創設した企業や移民の研究者が、米国の経済的活力を維持するうえで非常に大きな役割を果たしている。この起業家精神により、競争相手国が停滞に直面する中でも、米国は世界経済において競争力を維持できているのだ。

また、移民は米軍の強化にも寄与している。若年層の減少により深刻な人的資源のひっ迫に直面する中国やロシアとは異なり、米国は安定して人材を確保できる。この人口統計上の安定により、米国は徴兵制を用いることなく、全志願制の軍隊を維持し、国際舞台で強固な適応力のある軍事的存在感を示すことができるのである。

この人口統計上の優位性にもかかわらず、米国はますます深刻化する財政面での課題に直面している。退職するベビーブーマー世代の高齢者の数が非常に多いため、社会保障と医療保険制度への支出がかつてないほど増加している。2030年代までに、こうした福祉制度によって連邦予算が大幅に圧迫されるとみられている。そして、科学研究、インフラ整備、防衛予算の非軍事的要素など、地政学的な競争にとっての重要な分野に対する裁量的支出の余地はほとんど残らないだろう。

義務的支出が原因で増え続ける米国債によってクラウディングアウトが引き起こされ、技術革新や国際的競争力への投資が妨げられるリスクが存在する。この財政危機に対する有効な解決策が見つからなければ、米国は世界のリーダーとしての地位を支える優位性そのものを維持できない可能性がある。

戦略的な優先事項

移民は、米国の人口統計上の優位性を維持する要素であると同時に、最も対立を招く政治問題の一つでもある。党派の分裂は政策の不安定化につながるため、米国は人口統計上の優位性を十分に活かしきれていない。移民改革に関する政治的合意が得られない場合、継続的な人口増加がもたらす長期にわたる恩恵が得られなくなる可能性がある。

中国やロシアといった競争相手国は、人口の壁に阻まれて、世界的な野心が抑えられるだろう。一方、米国は長期にわたって安定した立場を維持できる。米国は、この人口統計上の回復力によって戦略的な優先事項に専念できるが、競争相手国は国内の危機への対応に追われることになる。大国間の競争では、人口統計は長く存続できる方が有利だ。米国は長距離走に耐えられるようにできており、競争相手国は崩壊に向かって短距離走をしているのである。

地政学の分野では、人口構成が運命を決定する。米国は長期にわたる競争に耐える能力を持つが、中国とロシアは自国の力を誇示する機会が失われつつある。この「消耗戦」における優位性が、国際秩序を形作る決め手となる可能性がある。

米国の人口統計上の優位性は強力な資産だが、保証はない。米国は世界のリーダーとしての地位を維持するために、二つの重要な政策決定を行う必要がある。一つは財政危機に対応し、技術革新とインフラ整備への投資を維持すること。もう一つは、人口統計上の優位性を維持できる持続可能な移民制度を確立することだ。

これらの対策を講じなければ、米国は国際秩序における唯一の立場を失うリスクがある。歴史が示すように、政策が運命を決定する。今日の選択により、米国の人口統計上の優位性が強さの源となるか、チャンスを逃すことになるかが決まる。

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