新たな課題

移民の武器化 - 各国政府はいかにして難民の移動を戦略的手段として利用しているか

移民はたびたび地政学的な争いの手駒となり、人の移動を武器として扱う国家の間で板挟みになる。

2025年8月25日、ポーランド東部のクリンキで、ポーランドのドナルド・トゥスク首相と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長がポーランドとベラルーシの国境沿いのフェンスを訪問するのに先立って、周辺の警備を強化するポーランド国境警備隊。[Janek Skarzynski/ AFP]
2025年8月25日、ポーランド東部のクリンキで、ポーランドのドナルド・トゥスク首相と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長がポーランドとベラルーシの国境沿いのフェンスを訪問するのに先立って、周辺の警備を強化するポーランド国境警備隊。[Janek Skarzynski/ AFP]

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近年、政治的手段として移民を操作するケースが増加している。近隣国との政治的または経済的対立に直面している政府が、意図的に難民の移動を助長、誘導、あるいは操作して、圧力をかけている。

この現象は「移民の武器化」とよく表現される。決して新しい現象ではない。最近のケースをみると、国際関係において、今でもなお強制力を伴う手段として有効であることがわかる。

2023年に、欧州連合への多数の移民の越境を画策したとして、ポーランドがベラルーシを非難したケースは、近年特に顕著な事例の一つである。ベラルーシは、西側諸国の制裁に対する報復として、中東やアフリカからの移民の移動の制限を緩和し、欧州連合(EU)の国境に移民を送り込んでいると非難された。

このため、辺境の森林地帯で人道的危機が発生した。移民が国境警備隊に挟まれ、閉じ込められる状況が生じたのである。EUはベラルーシの行動を「ハイブリッド戦争」と表現し、 欧州各国政府に対する対抗手段 として移民の圧力が利用されている状況を強調した。

2024年9月15日、モロッコ北部のフニデク近郊で、アフリカ大陸にあるスペイン領の飛び地であるセウタとの国境を越えようと、有刺鉄線のフェンスに押し寄せる移民たち。[AFP]
2024年9月15日、モロッコ北部のフニデク近郊で、アフリカ大陸にあるスペイン領の飛び地であるセウタとの国境を越えようと、有刺鉄線のフェンスに押し寄せる移民たち。[AFP]

政治的譲歩

2024年にも似たような動きが見られた。モロッコがスペイン領の飛び地であるセウタとの国境の管理を一時的に緩和した結果、数日間で数千人が越境する事態に発展したのだ。

アナリストによると、この動きは、西サハラをめぐるスペインとの外交的緊張に関連しているという。このように移民が急増したことで、現地の資源がひっ迫し、スペインはやむを得ずモロッコと緊急の交渉を行うことになった。このことは、移民の急増が政治的譲歩を引き出すために利用される可能性があることを示している。

トルコも300万人以上のシリア難民を受け入れている立場を交渉材料として利用し続けてきた。2024年、トルコは欧州各国政府に対し、追加の財政支援がなければ難民の移動を抑える保証ができなくなると警告した。欧州各国政府の当局者は、これに関して、ベルギーとの政治的または経済的対立が深刻化した際にトルコが「ゲートを開放する」ことができるという明確なメッセージだと見ている。

こうしたケースから、移民が強制力を伴う有効な手段となる理由がわかるだろう。移民によって人道的危機が発生し、それが対象国の国内の政治に直接影響を与えるのである。

難民の悲惨な姿や難民が押し寄せる国境施設の光景は、偏向した議論を助長し、政府の弱体化を招き、早急な対応を余儀なくさせる。同時に、この手法は倫理的なジレンマをもたらす。移民そのものがたびたび地政学的な争いの手駒となり、人の移動を武器として扱う国家の間で板挟みになる。

戦争、抑圧、気候変動によって世界全体で移民が増加していることから、移民の武器化はこれからも続くものと見られる。

国際法では難民の権利が認められているが、それが執行される仕組みは脆弱なままであり、各国はほとんど説明責任を果たすことなく移民の圧力を利用できるのである。

この傾向は、欧州やその他の地域が、人道的保護と政治的操作に対する対抗力の両方を兼ね備えた戦略を策定する必要があることを明確に示している。

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