新たな課題
ナイル川に生じた新たな亀裂
エチオピアの巨大ダムが上流で国家の夢を支える一方、下流の隣国は、干ばつのたびに地政学的な試練が訪れる可能性に身構えている。
![2025年9月9日、グバで行われた公式開所式典の最中に撮影された、グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム(GERD)の全景。[Luis Tato/AFP通信]](/gc7/images/2026/01/27/53583-afp__20250909__73vw3re__v2__highres__topshotethiopiaegyptsudanenergypoliticsdam__1_-370_237.webp)
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[本稿は、グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダムを中心とした地政学的・環境的危機を掘り下げる全3回の調査報道シリーズの第1回である。]
グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム(GERD)で響くタービンの轟音は、アディスアベバにとって国家的勝利の象徴となっている。
2025年9月に開所したこの巨大構造物は、エチオピアの主権を体現する存在である。人口のほぼ半数が電力のない生活を余儀なくされてきた国を電化するという、コンクリートで形づくられた約束でもある。
近代化の象徴であるこのダムは、40億ドルを投じた未来への賭けであり、飢饉と援助依存によって規定されてきた過去への決別でもある。
しかし、ナイル川を1,500マイル下った先のナイル・デルタでは、その沈黙が耳をつんざくほどだ。
そこでは、エジプトの農民たちが、灌漑用水路がひび割れた大地へと変わることを恐れ、銃弾ではなく、水量、蒸発量の指標、そして外交的強硬姿勢によって戦われる「静かな戦争」の犠牲者になることを危惧している。
水危機
その危機は、もはや机上の空論ではない。
およそ10年もの間、専門家たちはこのダムと不安定な地域気候との衝突を警告してきた。その懸念は、いま現実のものとなっている。
2024年10月に完全に完了したダムの巨大貯水池の湛水は、アフリカの角と呼ばれる地域での干ばつと重なった。上流ではタービンが唸りを上げ、エチオピアが切望する電力を生み出している一方で、エジプトのアスワン・ハイ・ダムに届く水量は不安定な状態が続いている。
エチオピアにとって、このダムは政治的な武器などではない。自国の存立に関わる不可欠な存在である。
その論理には説得力がある。エチオピアはナイル川の水量の85%を供給しているにもかかわらず、歴史的にそのほとんどを利用してこなかった。ダムが全面稼働すれば、エチオピアはケニアやスーダンといった近隣諸国に安価な電力を供給するエネルギー輸出国となり、事実上「東アフリカのバッテリー」となる見通しだ。この電力は工業化に不可欠であり、数百万人を貧困から引き上げるための生命線でもある。
しかし、淡水の97%をナイル川に依存するエジプトにとって、このダムは文明の命脈を締め上げかねない存在だ。計算は残酷で容赦がない。恒常的な流量減少に、1億2,000万人を超えると見込まれる人口増加が重なれば、海水淡水化や下水再利用をどれほど進めても埋め合わせることのできない水不足を生みかねない。
エジプトは、干ばつ時の放流を定める法的拘束力のある合意がなければ、自国の存立そのものがアディスアベバのスイッチ一つに左右されかねないと懸念している。
ゼロサムの方程式
この二つの大国の間に位置するのがスーダンであり、文字通りにも比喩的にも板挟みの立場に置かれている。
当初、ハルツームは楽観的だった。スーダンの技術者たちは、GERDが歴史的に河岸の共同体を壊滅させてきた青ナイル川の猛威を振るう季節洪水を制御し、自国の電力網を安定させる安価な電力をもたらすことを期待していた。
しかし、その楽観は不安へと変質した。
現在、ハルツームが恐れているのは水量そのものよりも流量の予測のつかなさだ。2025年、上流で事前通告のない貯水措置が取られたことで、スーダンの揚水施設が干上がり、都市の水供給が混乱し、農作物の収穫周期も壊滅的な打撃を受けた。
それは、データ共有が義務ではなく任意とされる世界で待ち受ける調整の混乱の前触れだった。
干ばつが深刻化し、政治的なレトリックが過熱するなか、かつて恵みの神として崇拝されたナイル川は、いまやゼロサムの方程式における冷たい変数へと変わってしまった。水はそこに存在するが、歴史上初めて、それは自由に海へと流れ込んではいない。