新たな課題

サハラ以南アフリカの水危機―持続可能な未来に向けたレジリエンス構築

強靭な水システムの実現には、家庭、農業、産業といった多様な用水需要を調整・管理する強固な制度基盤が不可欠だ。

南スーダンの女性が、処理されていない水を満たしたジェリカンを手押し車で運んでいる。[ユニセフ]
南スーダンの女性が、処理されていない水を満たしたジェリカンを手押し車で運んでいる。[ユニセフ]

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サハラ以南アフリカは、前例のない規模の水危機に直面している。この地域では10人のうち7人が安全な飲料水を利用できず、世界で最も水の安全保障が脆弱な地域となっている。

増加する人口、拡大する経済活動、そして激化する気候変動の極端現象が、水システムを限界まで追い込んでいる。老朽化した配管、未処理の廃水、深刻な汚染を受けた水源が日常化する一方、洪水や干ばつが脆弱なインフラに甚大な被害をもたらしている。

緊急の対策を講じなければ、この地域のGDPは今世紀半ばまでに10~15%も落ち込む恐れがあり、人々の生計や地域の安定が脅かされる。打開の鍵は、強靭な水システムの構築にある。持続可能なインフラ、実行可能な情報、そして効果的な制度を統合し、今後訪れる課題に立ち向かわねばならない。

サハラ以南アフリカの水インフラは、非効率と放置の問題に悩まされている。最大60%の水が漏水、盗水、メーターの不具合によって失われており、手押しポンプの4分の1は常に故障している状態だ。こうした「建設→放置→再建」という高コストな悪循環が、数百万人の人々に安定的な水の利用を妨げている。

この悪循環を断ち切るには、インフラを長期的なレジリエンス(回復力)を念頭に設計しなければならない。持続可能な資金調達、定期的な保守管理に加え、「管理的帯水層涵養(Managed Aquifer Recharge)」といった革新的な手法—余剰水を地下に貯留して将来に備える—を活用することで、安定した給水サービスを実現できる。また、洪水緩和のために湿地を再生するなど、自然に基づく解決策(Nature-based Solutions)を従来型インフラと組み合わせることで、コストを削減しつつ環境持続可能性を高めることが可能だ。

データの力

効果的な水管理は、正確でタイムリーなデータに依存している。しかしサハラ以南アフリカの多くは、水システムを監視するための観測網や分析ツールが依然として不足している。一方で、衛星リモートセンシングや人工知能(AI)、機械学習といった技術の進展が、画期的な可能性をもたらしている。これらの技術により、政策立案者は干ばつや洪水のリスクを予測し、水資源を最適化するとともに、早期警戒システムの構築も可能となる。

水利用をめぐる社会経済的ダイナミクスを理解することも同様に重要だ。多くの農村部の世帯は、季節に応じて都市給水と地表水など複数の水源を使い分けている。こうした実態を把握するには、「家庭の水不安経験尺度(Household Water Insecurity Experience Scales)」のような調査が有効であり、水道事業体が多様なニーズに応じたサービスを提供するうえで貴重な示唆を与えてくれる。

連携の鍵

強靭な水システムの実現には、家庭、農業、産業といった競合する用水需要を調整・管理する強固な制度が不可欠だ。しかしサハラ以南アフリカでは、水ガバナンスがしばしば断片化しており、管轄の重複や縦割りの政策が一貫性を損ねている。

利用者協会や流域委員会といった参加型プラットフォームは、関係者を結集し、優先課題を調整して資源を共有する場となる。しかし、制度的能力の強化は依然として資金不足に悩まされており、水関連の開発援助のうち、ガバナンスや政策分野に向けられたものは16%未満にとどまっている。こうした「ソフト」なインフラの強化は、配水管や浄水施設の整備と同等に重要である。

この問題の重要度は、これ以上ないほど高い。サハラ以南アフリカの水危機は、公衆衛生や経済成長だけでなく、 地域の安定性 も脅かしている。強靭な水システムを構築することは、環境上の要請であるだけでなく、道徳的かつ経済的にも不可欠である。

持続可能なインフラへの投資、データに基づく知見の活用、そして包摂的なガバナンスの推進を通じて、この地域は水の安全保障へ向けた道筋を描くことができる。危機がさらに深刻化する前に、今こそ行動を起こすべき時だ。レジリエンス(回復力)とは、単に将来の困難を生き延びることではない。困難に直面しながらも、それを乗り越えて繁栄することこそが真の意味なのである。

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