世界危機レポート

紅海で今、一体何が起きているのか

フーシ派による海上での妨害作戦は、全面的な軍事衝突を引き起こすことなく、圧力をかけることを狙っている。

2025年3月21日、ギリシャ・ピレウス港の錨地に停泊するギリシャ船籍のタンカー「スーニオン号」の上空からの写真。同船は2024年8月、イエメン沖でフーシ派による複数回の攻撃を受け、甚大な損傷を負った。 [ニコラス・クツォコスタス/ヌルフォト/AFP]
2025年3月21日、ギリシャ・ピレウス港の錨地に停泊するギリシャ船籍のタンカー「スーニオン号」の上空からの写真。同船は2024年8月、イエメン沖でフーシ派による複数回の攻撃を受け、甚大な損傷を負った。 [ニコラス・クツォコスタス/ヌルフォト/AFP]

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2023年11月以降、イエメンのフーシ運動は紅海で海上からの圧力作戦を展開し、世界有数の重要航路であるこの海域を航行する商船を一貫して標的にしている。

こうした攻撃はしばしばイデオロギーや象徴的メッセージに基づくものと見られがちだが、その作戦的意図は極めて戦略的だ。紅海は世界の貿易の約12~15%を担っており、アジアとヨーロッパを結ぶ重要なエネルギー供給ルートやコンテナ船の航路が集中している。

この航路における限定的な混乱であっても、海上保険料の高騰を招き、船舶の迂回航行を余儀なくさせ、サプライチェーン全体の遅延を引き起こす可能性がある。

フーシ派が目的を達成するためには、紅海の航行を完全に遮断する必要はない。この航路を「信頼できないもの」にするだけで十分なのだ。そして今、まさにそれを実現しつつある。

コミットメントなき圧力

扇情的な物語が流布されているものの、これは中東全域に広がる紛争の始まりではない。この地域に関与するどの国も、緊張のエスカレーションから得るものはない。

フーシ派の行動は、イランの国益と極めて一致している。イランは長年にわたり、直接的な対決ではなく、代理勢力による圧力を戦略としてきた。この手法により、イランは影響力を行使しつつも、緊張のエスカレーションを抑制し、自らの関与を否認可能な状態に保つことができる。

攻撃自体は意図的に限定的であり、長期にわたる海戦や領土占領、国家間戦争を避けている。この戦略は「コミットメントなき圧力」を体現しており、全面的な報復を招かずに混乱をもたらすことを狙った代理戦術の典型といえる。

国際社会の対応は抑制的であり、護衛艦隊の派遣、阻止作戦、情報共有といった防衛的措置に重点が置かれている。その目的は 航行の自由を守りつつ、紛争を拡大させる恐れのある行動を回避することにある。

こうした自制は弱さの表れではなく、攻撃側が望む物語を奪うための計算された戦略だ。過剰反応すれば、「紅海が混沌に陥っている」という認識を逆に裏付けてしまう。一方、冷静かつ抑制の効いた対応こそがその物語を無力化し、地域の安定を維持する鍵となる。

この作戦の心理的側面は、実際の攻撃と同等に重要な意味を持つ。

迎撃されたドローン、かすりのニアミス、あるいは航路変更を余儀なくされた船舶の一件一件が、文脈を切り離された形でソーシャルメディアやニュースメディアで拡散される。その結果、実際の海上状況をはるかに上回る「混乱」の印象が世論に広がっている。

こうした情報の拡散は意図的に行われており、領土ではなく「注目」を支配することを狙っている。海運会社が航路を変更し、市場が反応する時点で、たとえ一隻も沈没させなくとも、この戦略はすでに成功を収めているのだ。

不確実性

今後、紅海は閉鎖されることはないと見られるが、混乱は続くだろう。

今後も攻撃は、全面的な報復を招かない範囲でコスト増を狙う水準にとどまるとみられる。国際部隊はエスカレーションではなく、封じ込めに焦点を当て続けるだろう。真のリスクは突発的な戦争ではなく、長期化する「不確実性」にある。それが時間とともに世界の貿易やエネルギー市場をじわじわと不安定化させる恐れがある。

紅海危機の本質は、地域紛争を引き起こすことにはない。

これは、イランの後ろ盾を受けたフーシ派が、世界システムにおける貿易・エネルギー・認識という最も敏感な要所の脆弱性を意図的に突く作戦なのだ。

この戦略は計算されたものではあるが、国際的な規範を蝕み、「不確実性」を武器化して政治的・経済的混乱を引き起こす点で、極めて不安定要因となっている。

これは決して「それほど深刻ではない」状況ではなく、むしろこうした行為者が、自らの利益のために世界の安定を巧みに操作しようとする危険な意志を露わにしている。その代償を払うのは、安全な貿易とエネルギー供給に依存する何百万人もの人々だ。

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