戦略的課題

ロシア、戦争により労働者不足が加速する中で強制労働を復活させる

新たな法律によって刑事徒役を復活させ、労働力の空白を埋めようとするモスクワの動きがスターリン時代の慣習と比較されている。

2025年1月22日、モスクワ中心部にて掲げられた、ウクライナにおけるロシアの軍事行動に参加するロシア軍のミハイル・マルツェフ中佐(上)のポスターと契約制兵役を推進する看板のそばを通る人々。[Alexander Nemenov/AFP]
2025年1月22日、モスクワ中心部にて掲げられた、ウクライナにおけるロシアの軍事行動に参加するロシア軍のミハイル・マルツェフ中佐(上)のポスターと契約制兵役を推進する看板のそばを通る人々。[Alexander Nemenov/AFP]

ムラド・ラヒモフ |

ロシアは過去の刑罰を現代のやり方で復活させている。強制労働である。

ウラジーミル・プーチン大統領は7月23日、裁判所が、有罪判決を受けた者に刑務所での服役に代わって矯正施設での労働を命じることができるとする法律に署名した。この措置は、軽犯罪および中程度の犯罪で有罪となった者と、重大犯罪で有罪となった初犯者に適用される。

最長期間は5年である。受刑者が得る賃金は、5%~20%が差し引かれて国に納められる。未成年者、障がい者、妊婦、軍人、定年退職の年齢に近い者、3歳未満の子を持つ単身の父親など、特定の層は適用対象外となる。

義務を果たさない者や繰り返し労働規則に違反する者は、刑罰が投獄に切り替わる可能性がある。

2023年9月4日、モスクワにて掲げられた「我々の仕事は祖国を守ること」と書かれた契約制兵役を推進するポスターのそばを通る人々。[Natalia Kolesnikova/AFP]
2023年9月4日、モスクワにて掲げられた「我々の仕事は祖国を守ること」と書かれた契約制兵役を推進するポスターのそばを通る人々。[Natalia Kolesnikova/AFP]

刑法改正により、扶養義務の不履行、非合法的な銀行業務、密猟、政府契約における汚職、商業賄賂など、さまざまな犯罪に対して、刑務所収容や罰金の代わりに強制労働が適用されるようになった。

労働力の不足

ロシアは、 ウクライナ戦争に男性を動員したことによって労働力不足が深刻化 する中で、この措置を導入した。

5月に行われた起業家・経営者が加入する国レベルの組織である「デロヴァヤ・ロシア」との会合で、プーチン大統領は、毎月5万~6万人の男性がいわゆる「特別軍事作戦」に志願していると述べた。

7月に、アントン・コチャコフ労働相が、2030年までにロシア経済には追加の労働者が少なくとも240万人必要となり、不足する労働者の総数は1090万人に達する見込みだと指摘した。

ロンドン在住の政治学者アリッシャー・イルハモフ氏は、強制労働は、1957年の強制労働の廃止に関する条約を含む国際法に違反し、ロシアの憲法でも禁止されていると述べている。

同氏は、「この刑罰の刑事司法制度への再導入は、一定の範囲において、奴隷制の要素や、ロシア帝国および(ヨシフ)スターリン政権下で用いられたカトルガ(懲役)労働制度を復活させるものだ」と、Global Watchの姉妹誌であるKonturに対して語っている。

ソビエトの慣習の復活

スターリンの死後、ソ連は「矯正労働」の懲罰制度を採用した。この制度により、受刑者は刑務所の壁の外で働かされた。囚人は投獄よりもこれを好むことが多かったが、イルハモフ氏は、この制度によって囚人が危険な業種に従事させられて、主要な経済プロジェクトを推進するために搾取されたと指摘している。

同氏は、「刑罰としての強制労働の復活は、実質的に刑事徒役と奴隷制の慣習の復活に等しい」と述べている。

イルハモフ氏は、人道的観点からではなく経済的要因が強制労働復活の背景にあると強調した。戦争によってリソースがひっ迫し、労働力不足が深刻化する中で、ロシア当局は刑務所のコストを削減して労働力を確保することを望んでいる。

司法制度で政治的動機に商業的利害が加われば、強制労働の拡大は「必然的に司法がより懲罰的になる」とイルハモフ氏は警鐘を鳴らしている。

ロシアは2011年に初めて強制労働に関する規定を追加したが、人権問題をめぐる西側諸国の批判を避けるため、施行が延期されていたと同氏は指摘した。現在では、その歯止めはない。

法律の違反

プラハのチャールズ大学の教職員であるドミトリー・ドゥブロフスキー氏もこれに同調し、この動きは経済的な要因によるものであり、処罰をより人道的にするのではなく、国家による抑圧を拡大するものであると指摘した。

同氏は、強制労働は、「テロ行為の正当化」、「過激派のスローガン」、「過激主義への呼びかけ」といった政治的罪状で有罪判決を受けた者にも適用され得るため、強制労働条約の2014年の議定書に違反すると主張している。

「このような罪状で有罪判決を受けた者は政治犯と見なされる。そしてこのような者たちを強制労働に送り込むことは、2014年の議定書への違反と見なされる」とドゥブロフスキー氏はKonturに語った。

ドゥブロフスキー氏は、すでにロシア軍は強制労働を悪用し、司令官が兵士を個人的なプロジェクトに従事させていると付け加えた。刑務所のような監視体制はほとんど、もしくはまったくないため、受刑者は労働権の侵害に関して特に不利な立場に置かれている。

軍において、裁判を行わずに労働を割り当てることは、ジュネーヴ諸条約の追加議定書を含む国際人道法に違反し、虐待や国際刑事裁判所における犯罪に相当する可能性があると同氏は警鐘を鳴らしている。

「ロシアには、自国の軍人をこうした慣習から守る法的な制度が存在しない」と同氏は述べ、責任を追及するためにはロシア軍による戦争犯罪や人道に対する犯罪の徹底的な調査が必要だと付け加えた。

人権活動家で労働移民問題の専門家でもあるバレンティナ・チュピック氏は、強制労働の復活は、動員よりもイデオロギーに関係していると語っている。同氏は、ロシア政府は移民を制限し、外国人労働者の代わりに受刑者を投入しようとしていると主張する一方で、「ロシア人、特にロシアの犯罪者には、技能も勤勉さも規律もない」とし、ゆえにこの計画は失敗すると予測した。

チュピック氏は、この方針を戦争、そして社会的孤立の推進と結びつけて考えている。

「ロシアはグラーグ(労働収容所の管理局)となりつつあり、奴隷労働は避けられない」と同氏はKonturに語り、強制労働はロシアの歴史に深く根ざしていると指摘した。

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