戦略的課題
ロシアの対ウクライナ戦争:軍事・経済崩壊への道
モスクワは、自国民の安全や保障よりも自己保身を優先していることが明らかになった。
![ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(奥)とドミトリー・メドベージェフ首相は、2018年5月8日にモスクワで開かれた国家議会下院(ドゥーマ)の会合に出席した。この日、ロシア議会はメドベージェフの新たな任期を支持する採決を行った。最近、メドベージェフが「デッド・ハンド(報復自動核指令システム)」に言及したことは、モスクワが追いつめられた状況にあることを示している。[ユーリ・カドブノフ/AFP通信]](/gc7/images/2025/08/05/51385-med-370_237.webp)
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ロシアの対ウクライナ戦争は行き詰まりつつあり、戦死・負傷者は約100万人に上り、経済も崩壊の瀬戸際にある。
モスクワが時代遅れの戦略と空虚な核威嚇に依存していることは、国民の安全や保障よりも自己保身を優先する指導部の姿勢を浮き彫りにしている。制裁が強まる中、貿易相手国のリスクも高まっており、ロシアが停戦合意を拒み続ける姿勢は、自国とエネルギー輸出に依存する国々を経済的破滅へと追い込んでいる。この戦争の影響は軍事面にとどまらず、国家の存在そのものを揺るがすものとなっている。
相次ぐ軍事的失敗と死傷者の増加
ロシアの軍事作戦は甚大な損失に見舞われている。2022年の侵攻開始以降、戦死・負傷者は約100万人に上り、そのうちおよそ25万人が死亡した。これは、第二次世界大戦以降のソ連およびロシアのあらゆる紛争において、前例のない犠牲者数である。
モスクワは、わずかな領土獲得のために兵士を大量に投入する「肉挽き機」戦略を採用しており、その結果、前進は遅く、多大な犠牲を伴っている。2024年1月以降、ロシアが新たに制圧したウクライナ領土は全体のわずか1%にすぎず、同国が戦略目標を達成できていないことを如実に物語っている。
甚大な死傷者数を補うため、クレムリンは苦肉の策に出ている。受刑者の動員や北朝鮮兵の受け入れに加え、国内の貧困地域を重点的に徴兵対象としている。一方で、モスクワやサンクトペテルブルクのエリート層の子どもたちは戦場から免れており、クレムリンが国家の安全よりも自己保身を優先している実態を浮き彫りにしている。
経済の脆弱性と広がる影響
ロシア経済は、 長期化する戦争の負担に耐え切れなくなっている。長年の制裁で既に弱体化していたモスクワは、エネルギー輸出に依存し続けており、その立場はますます不安定になっている。ロシア最大の石油購入国であるインドや中国でさえ、アメリカからの二次的制裁の可能性に直面しており、モスクワは経済的に一層孤立を深めている。
ロシア産石油輸出への関税導入は、同国にとって重要な収入源のひとつを断ち、財政不安を一層悪化させる可能性がある。ロシアと取引を続ける各国にとっても、経済的関与のリスクが高まっている。ロシアが停戦に応じなければ、経済的影響がさらに広がり、同国のみならず貿易相手国にも波及する恐れがある。
核威嚇の幻想
軍事的・経済的困難に直面する中、ロシア指導部は強さを誇示するために核威嚇に訴えるようになっている。ドミトリー・メドベージェフ首相が最近言及した「デッド・ハンド(死の手)」核指令システム -- 柔軟性のない自動または事前設定による核抑止システム -- は、モスクワの絶望的な状況を象徴している。
このような威嚇的な姿勢は、クレムリンが国民の安全や保障よりも自己保身を優先していることを浮き彫りにしている。指導部の生き残りを国家の福祉よりも優先することで、モスクワは国際社会における自らの信頼性を損なっている。
迫りくる崩壊
軍事的失敗、経済の脆弱性、そして空虚な核の威嚇が重なり合い、ロシアの将来には暗い影が差している。ウクライナでの長期にわたる戦争の影響は、軍事力をすり減らすだけでなく、国家を経済的・社会的崩壊へと追い込んでいる。
ロシアが停戦に応じない姿勢は、もはや持続可能ではない。この紛争が長引けば長引くほど、その代償は大きくなり、それはロシア自身だけでなく、貿易相手国や世界経済全体にも及ぶことになる。
クレムリンが破綻しつつある戦略に固執し続ける限り、ロシアの進む道には、成果の減少と孤立の拡大しか残されていない。問題は、ロシアがその行動の報いを受けるかどうかではなく、その結果がいつ指導部と国民に対して決定的な代償として降りかかるかである。