防衛動向

ロシアの脅威が拡大する中、ドイツが欧州で最も強固な軍隊を整備する決意を表明

この決定は、クレムリンの軍事的野心がウクライナから他の地域に波及する懸念が欧州全体で高まる中で下されたものである。

5月8日、ドイツのオーアドルフで、ドイツ連邦軍の領土防衛隊第5連隊の初の点呼・宣誓で整列するドイツ軍兵士。[Martin Schutt/DPA/dpa Picture-Alliance via AFP]
5月8日、ドイツのオーアドルフで、ドイツ連邦軍の領土防衛隊第5連隊の初の点呼・宣誓で整列するドイツ軍兵士。[Martin Schutt/DPA/dpa Picture-Alliance via AFP]

Global Watch及びAFP通信 |

ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、欧州における「最も強固な従来型の軍隊」を整備することを明言した。こうした軍隊は、ウクライナでの戦争が長期化する中で、欧州の防衛に不可欠であると同首相が位置付けているものである。この発表は、ロシアによる侵略拡大の可能性にNATOが警戒を強める中で行われた。

5月14日、メルツ首相は就任後初の連邦議会(下院)での主要演説で「これは欧州で最も人口が多く最も経済力のある国として当然の対応だ」と述べた。「この対応は、私たちの友人やパートナーからも期待されている。いや、実質的に要求されているものだ」

メルツ首相の発言は、ロシアの軍事的野心がウクライナから他の地域に波及する懸念が欧州全体で高まる中で行われたものだ。

デンマーク防衛情報局(DDIS)が2月に発表した報告書では、モスクワで正式な決定はまだ下されていないものの、ロシアが将来的なNATOとの戦争に備えて準備を進めていると警告している。

5月14日、就任後初めて連邦議会(下院)で演説を行うドイツのフリードリヒ・メルツ首相。[John MacDougall/AFP]
5月14日、就任後初めて連邦議会(下院)で演説を行うドイツのフリードリヒ・メルツ首相。[John MacDougall/AFP]

報告書では「ロシアは、自国が西側と対立状態にあると認識しており、NATOとの戦争に備えている」と記されている。

DDISは、ロシアがウクライナとNATOを同時に攻撃する可能性は低いと評価しているが、ウクライナでの戦闘が終結もしくは中断した時点で、モスクワが速やかにNATOの東方戦線に部隊と軍事資源を移動させる可能性があると警告している。

軍事への投資不足を解消

同報告書では、中国、イラン、北朝鮮からの軍事的・経済的支援により、ロシアはウクライナにおける戦闘を継続しながら、再軍備や新たな戦争への対応ができるとも述べられている。

また、ウクライナ戦争の終結後6か月以内に、クレムリンが隣国で新たな局地戦争を勃発させる可能性があるという懸念が同報告書で指摘されている。欧州各国の首脳は、そのシナリオが現実となる可能性を徐々に無視できなくなってきている。

メルツ首相は、このシナリオの実現を防ぐため、ここ数十年間のドイツの軍事への投資不足を解消するための抜本的な計画を表明した。

ドイツ政府は、前議会で財政計画を承認し、防衛とインフラに数千億ユーロ相当の追加資金を投入する「財政バズーカ」の準備を既に進めている。

同首相は「ドイツ連邦軍の戦力強化が最大の優先事項だ」と述べている。「ドイツ政府は、ドイツ連邦軍が欧州で最も強固な従来型の軍隊となるために必要な財政資源をすべて投入するつもりだ」

さらに同首相は「強さは侵略者に対する抑止力となり、弱さは侵略を招く」と付け加えた。

メルツ首相は、地政学的な緊張が高まっているヨーロッパにおいて、ベルリンが担う外交・安全保障上の役割を拡大することも表明した。

同首相は「ロシアがウクライナに勝利したり、ウクライナの一部を併合したりすれば、それで満足すると考える人は間違っている」と語っている。

「一層の責任を果たす」

3年以上前にロシアによるウクライナに対する全面侵攻が始まったことで、中道左派のオラフ・ショルツ前首相は行動開始を余儀なくされた。

同前首相は国防費を1,000億ユーロ(1,120億ドル)増額すると発表した。その結果、ドイツはGDPの2%というNATOの目標を達成することができた。

新政権は、官僚的な障害を排除し、軍備調達を進め、軍備を拡大することで、このイニシアチブをさらに強化していく考えだ。

メルツ首相は、兵員不足解消のため、「新しい魅力的な志願兵役」を設けることを発表した。

ボリス・ピストリウス国防相は、初めは志願制とするが、兵員募集の目標が達成されない場合は他の選択肢を検討する可能性もあると付け加えた。

「私たちの目標は、ドイツとヨーロッパが共に強くなり、兵器を使用する必要がなくなることだ」とメルツ首相は結論付けた。「これを達成するには、ドイツがNATOとEU(欧州連合)の中で一層の責任を果たす必要がある」

しかし、まだ深刻な課題が残されている。

ドイツ連邦軍は、軍装備品の欠陥や整備状態の不十分さの報告に頭を抱えており、大規模な国防契約が実を結ぶまでには数年を要する見込みだ。連邦議会のエヴァ・ヘーグル委員はこのほど、軍隊は依然として「何もかもが不十分すぎる」と警鐘を鳴らしている。

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