戦略的課題

ロシア経済:制裁・原油価格の下落・インフレが戦争疲れの露を直撃

ウクライナとの戦争の行方は経済的要因に大きく左右されると、アナリストたちは予測している。

昨年12月20日、モスクワで撮影された「ロシア銀行」の刻印と国章が入ったロシアルーブル硬貨。[アレクサンドル・ネメノフ/AFP]
昨年12月20日、モスクワで撮影された「ロシア銀行」の刻印と国章が入ったロシアルーブル硬貨。[アレクサンドル・ネメノフ/AFP]

執筆:ロバート・スタンリー |

ウクライナに対する3年にわたる戦争努力で莫大な経済的・人的資源を費やしてきたロシアは、最終的にこの紛争の行方を左右する可能性のある国際制裁 によっても、ますます経済的な圧力にさらされている。

金融情報サイト「Trading Economics」がロシア政府の統計を引用して報じたところによると、3月の年間インフレ率 は10.3%で、5カ月連続の上昇となり、軍需品を除く製造業の稼働率はわずか60%にとどまっていた。

その背後には、ロシアの急所を突く米国、欧州連合(EU)およびその同盟国による制裁措置がある。

これらの制裁は、コンピュータチップなどのロシアが自国内で生産できない重要物資の輸入を制限し、さらに、戦争前まではロシア経済を支えていたエネルギー輸出を事実上停止させている。

一般的に制裁の効果が現れるには時間がかかるが、ロシア経済にはようやくその打撃の兆候が見え始めていると、大西洋評議会ユーラシア・センターの非常勤研究員であるマーク・テムニツキー氏は述べている。

「ロシア経済は現在、国際的な制裁の本格的な影響を受け始めている。この傾向が続けば、これらの経済的制裁の全面的な影響と、ロシア軍に対するウクライナの強い抵抗が相まって、ついにはクレムリンに戦争終結を迫る十分な圧力となり得るだろう」と、彼は1月に記した。

拡大する予算赤字

ロシアの主要輸出品の一つであるウラル原油は、ウクライナへの本格的な侵攻を開始してから2ヶ月足らずの2022年4月当時、FOB(船積み渡し)ベースで1バレル98ドルから、2023年4月24日現在、60ドルを大きく下回る価格にまで下落したと、ロイター通信は報じている。

ウラル原油の価格は、ロシアによるクリミア併合の1年前である2013年2月に歴史的な最高値である1バレル117.65ドルに達していた。

価格はさらに下落する可能性がある。ロシア経済発展省は4月21日、2025年のウラル原油の平均予測価格を1バレル56ドルにまで引き下げた。

ロシアのアントン・シルアノフ財務相は、拡大する財政赤字を非常に懸念しており、支出を抑制しているという見せかけだけでも維持するために、クレムリンが石油収入 から国家福祉基金に積み立てる資金を増額するよう求めていると、ロシアの独立系経済ニュースサイト「The Bell」が4月25日に報じた。

それでも、政府支出は依然として経済成長の主な原動力となっている。というのも、侵攻開始以降、外国企業や外国人、そしてロシアの中間層の多くが国を離れ、エネルギー輸出はほぼ停止し、軍は何十万人もの兵士を(多くは本人の意思に反して)動員したからである。

昨年末に発表されたキエフ経済大学の調査報告書は、ロシアが直面する財政的な圧力の高まりと、限られたマクロ経済の余力を踏まえ、ウクライナの同盟国はこれを好機ととらえて、対ロシアの経済的・戦略的圧力をさらに強化すべきだと提言している。

そのうえで報告書は、「今年の秋、ルーブルの下落が加速し、米ドルとユーロに対してその価値は50%以上減少した」と記している。

不足する人手

インフレ率は徐々に落ち着きを見せており、季節調整済みの年率換算で見ると、2025年3月には7.1%にまで低下した(2024年第4四半期の12.9%から改善)。しかしながら、景気後退のリスクはむしろ高まっている。

経済は高金利に圧迫されており、ロシア中央銀行は4月25日に金利を21%のまま維持すると発表し、今年いっぱいその水準を維持する見込みだと述べている。

ロシア中銀は4月25日の英語声明で、「基調的なものを含め、現在のインフレ圧力は依然として高水準にあるものの、低下を続けている」と述べた。一方で「国内需要の伸びは、物品やサービスの供給拡大の能力を依然として大きく上回っている」とも付け加えた。

ロシア中銀は、今年の経済成長率が1%から2%にとどまり、来年は0.5%から1.5%に減速すると予測する。

製造業の成長の大半は戦時経済によるものだが、数十万人の男性が軍に徴兵され、80万人が死傷したとされる今、ロシアは経済成長に必要な製品を生産するにも、鉄道を維持するにも、熟練労働力が深刻に不足している。

戦争と国際制裁に起因する人手と部品の不足がロシアの鉄道を麻痺させ、貨物列車の運行速度は過去65年で最低水準にまで落ち込んでいると、鉄道関連ニュースサイト「Rail-Freight」は伝えている。

「下落は急落へと変わりうる」

これら諸々の圧力がロシアの行動の余地をどんどん狭めている。

「これ以上の失敗があれば、冷え込みつつあるロシア経済を不安定にしかねない」と、ロシア経済と政治を専門とする欧州政策分析センター(CEPA)の客員上級研究員、アレクサンドル・コリヤンドル氏は強調した。

「ちょっとした下落が、簡単に急落に変わりうる」と彼は4月にCEPAのウェブサイトに記した。「政策決定者による誤った判断、原油価格のさらなる下落、あるいはインフレ対応の怠慢によって、ロシアは危機に直面する可能性がある。」

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