防衛動向
「飛ぶチェルノブイリ」か、それとも超兵器か—ロシアの原子力ミサイル、失敗続きで不安を煽る
プーチン大統領が「無敵の兵器」と豪語する一方で、ブレヴェストニク(Burevestnik)ミサイルにはトラブル続きの開発歴と極めて高いリスクがつきまとう。その真の価値は、むしろ心理的・戦略的な威圧手段にあるようだ。

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ロシアがこのほど、9M730「ブレヴェストニク」原子力巡航ミサイルの「最終試験に成功した」と発表した。ウラジーミル・プーチン大統領はこれを他に類を見ない「無敵の超兵器」と称賛した。
しかし、こうした勝利に満ちたロシア側の物語の背後には、極秘裏に進められてきた不穏な開発プログラムが存在している。その過程では、壊滅的な失敗や致死的な事故が相次ぎ、軍備管理の専門家たちからも深い懐疑の目が向けられてきた。
NATOが「SSC-X-9 スカイフォール」と呼ぶブレヴェストニクは、実用的な軍事能力というよりも、むしろ高まる地政学的緊張下での心理戦や、核による「シグナリング(威嚇的示唆)」を目的とした、極めてリスクの高い賭けと言える。
この兵器の曲折に満ちた過去こそ、その本質を最も如実に物語っている。2019年8月、白海沿岸のニュノクサ(Nyonoksa)付近にある試験場で謎の爆発が発生し、少なくとも5人の原子力技術者が死亡した。事故直後、ロシア当局は一時的に情報を隠蔽しようとしたが、ほどなくして近隣のセベロドヴィンスク(Severodvinsk)市の放射線監視所が、通常の4倍から16倍に達する放射線量の急上昇を記録した。米国当局によると、この爆発は、海底から失敗したブレヴェストニクの試作機を回収する作業中に起きたものだったという。
環境への脅威
この事故を受けて、このミサイルは「飛ぶチェルノブイリ」という不気味な異名を付けられた。この呼び名は技術的にも的確である。ミサイルは小型だが稼働中の原子炉を搭載しており、専門家らは以前から、その推進システムが飛行中に放射性物質を含む排気を撒き散らす可能性が高いと警告してきた。その結果、飛行経路となるいかなる地域—ロシア国内を含む—に対しても、許容しがたい環境リスクをもたらす恐れがある。
こうした極めて高いリスクは、一つの疑問を突きつける―なぜロシアはこの兵器を開発しているのか。同国にはすでに、陸上配備型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射ミサイル、戦略爆撃機という核抑止の「三本の矢(核トライアド)」が整っており、いかなるミサイル防衛システムをも圧倒する能力を十分に備えているのだ。
専門家らは、ブレヴェストニクがもたらす新たな軍事的価値は、その莫大なコストと危険性を正当化するほどではないとの見解を示している。米国(「プラトゥー計画」)および旧ソ連はいずれも冷戦期に同様の原子力推進ミサイル構想を検討したが、いずれも「技術的に過度に複雑」「費用がかかり過ぎる」「試験・運用における危険性が許容できない」と判断し、最終的に放棄した経緯がある。
さらに、プーチン大統領が主張する「無敵」という表現も、現実から大きく乖離している。原子炉エンジンにより理論上「無限の航続距離」を実現し、予測不能な経路で飛行できる可能性はあるものの、このミサイルは亜音速で飛行する。比較的遅い速度のため、一度探知されれば、最新鋭の戦闘機や防空ネットワークによる迎撃に対して非常に脆弱である。
プロパガンダ兵器
誇大な宣伝と現実のギャップは、この兵器の真の目的が心理戦にあることを示している。発表時期も明らかに「核によるメッセージ」の一環だ。ウクライナでの消耗戦が続く中、西側諸国との緊張が高まるなか、ブレヴェストニクはロシアの核戦力の存在を改めて強く印象づける道具として機能し、NATOのさらなる関与を抑止することを狙っている。
これは二重の対象に向けて仕掛けられたプロパガンダ兵器だ。国内では、技術的優位性と国家的誇りを訴える物語としてロシア国民に向けられる。国際社会に対しては、恐怖を撒き散らし不安を煽ることで、西側同盟国間に「ロシアと対峙する代償」への懸念を植えつけ、分断を促すことを狙っている。
結局のところ、ブレヴェストニクは実戦で機能する兵器というより、極めて高リスクかつ高コストな象徴にすぎない。その最大の「成果」は戦場での性能ではなく、メディアを賑わすセンセーショナルな見出しにあるのかもしれない。このミサイルは、「脅威そのものが武器となる」核的緊張の時代への危険な回帰を示しており、実際に戦争で使われる前に、さらなる致死的事故を引き起こす可能性こそが、最も深刻な脅威なのである。