国際問題
中国企業、マリ軍事政権を狙ったイスラム過激派による襲撃の代償を支払う
かつての宗主国であるフランスや西洋諸国との関係を断ち切った後、マリの軍事政権は、中国やロシア、トルコとの連携強化を進めてきた。
![2025年5月3日、バマコの文化宮殿アマドゥ・ハンパテ前で、軍当局による政界野党勢力の解散可能性に抗議する集会が行われる中、親政権派のデモ参加者が横断幕を掲げてシュプレヒコールを上げる一方、マリの警察官が警戒線を形成している。[AFP]](/gc7/images/2025/09/17/51974-junta-370_237.webp)
AFP発 |
アルカーイダと連携するイスラム過激派は、マリの軍事政権を弱体化させる戦略の一環として、外国企業、特に中国企業が運営する工業施設に対して集中的な襲撃を展開している。
西アフリカ全域に活動拡大する「イスラムとムスリム支援グループ」(アラビア語略称:JNIM)は、その強大な勢力を背景に、乾燥地帯であるサヘル地域にとって現在最も重大な脅威となっていると、国連は指摘している。
6月、JNIMは、2020年と2021年の相次ぐクーデター以降、軍が政権を掌握するマリ国内で活動するすべての外国企業および「自組織の許可」なく国家の公共事業を行う全ての企業を、武装した戦闘員が標的にすると警告した。
最近の国連の報告書によれば、JNIMの「根本的な狙いは、軍事政権の正当性に挑戦し、権力を譲渡させ、シャリーア(イスラム法典)を導入する首長国の樹立」にあるとされている。
この目的を達成するため、JNIMが西部地域で実行する襲撃は「外国企業から資金を強要するマフィア的ネットワークを構築し、マリ政府の正当性を損なう」ことを可能にし、外国人を拉致して「各国政府に身代金を支払わせる」ことも戦略の一環としていると、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)は指摘した。
中国人労働者、拉致される
AEIによると、昨年7月下旬以降、JNIMは脅迫を実行に移し、アフリカ有数の金およびリチウム産出国であるマリで、外国企業が運営する7つの工業施設を攻撃した。
そのうち6か所は中国企業が運営しており、いずれも西部の金産出量の多いケーズ地域に集中していた。イスラム過激派はこれらの襲撃により、少なくとも11人の中国籍市民を拉致したと、AEIのアナリスト、リアム・カー氏がAFPに語った。
「現時点での分析では、中国が最も大きな打撃を受けているとみて間違いない」とカー氏は述べた。
襲撃を受けたことを受け、中国外務省は軍事政権に対し、「拉致された人々の捜索と救出に全力を尽くすよう」強く要請したと発表した。
また同省は、「現地の中国国民、施設およびプロジェクトの安全を確保するため、さらなる実効性のある具体的措置を講じてた」と述べた。
中国人に加えて、JNIMは7月上旬、西部のセメント工場でインド人3人を拉致した。
「このグループは中国人に対して特別な恨みがあるわけではなく、その背景にはマリ経済への打撃を与えたいというグループの意図がある」と、ダカールを拠点とするシンクタンク、ティンブクトゥ研究所のバカリ・サムベ所長は指摘した。
「ケーズは経済的要所としてJNIMにとって戦略的に重要な地域だ。この地域はマリの金生産量の約80%を占めており、最大の供給国であるセネガルへの貿易回廊として機能している」と、コンサル会社のスーファン・センターが指摘している。
このため、JNIMの西部地域での活動は、「マリにとって最大の経済パートナーの一つである中国とのビジネス関係を揺るがしかねない」とAEIは警戒している。
AEIのデータによると、中国企業によるマリへの民間投資は2009年から2024年の間に累計で16億ドルに上る。また、中国政府は2000年以降、137件のプロジェクトに18億ドルを投入している。
襲撃、各地に拡大
軍がクーデターで政権を掌握して以降、マリの北京への依存はますます深まっている。
旧宗主国フランスをはじめとする西側諸国から距離を置いた軍事政権は、中国のほか、ロシアやトルコとの連携強化を進めてきた。
ワグネル民間軍事会社およびその後継組織「アフリカ部隊」のロシア人傭兵に加え、中国製装甲車やトルコ製ドローンが、10年以上にわたるマリ軍によるイスラム過激派への対テロ作戦を支援している。
カー氏によれば、ロシアが「影響力の拡大のために現状を打破する存在となる」意志を持っていることは、中国と対照的である。なぜなら、中国は自らのビジネス利益を守るため安定を強く求めているからである。
外部の支援があるにもかかわらず、マリの軍事政権はJNIMやそれに並ぶ勢力である「イスラム国サヘル州」の活動を抑え込むのに苦戦している。
8月にはケーズ地域で致命的な襲撃が相次いだほか、JNIMが「初めて」マリ中部の企業を標的にしたとカー氏は指摘した。セグー近郊の中国系製糖製工場も攻撃対象となった。
それから数日後、南部ブゴニにある英国企業が運営するリチウム鉱山への襲撃で、警備員1人が死亡した。
イスラム過激派の襲撃が相次ぐ中、マリの軍事政権は自国資源に対する主導権を強化する国民主義的政策を掲げながら、鉱物資源への支配強化を図っている。
軍事政権は、マリ最大の金鉱山であるケーズ地域のルロ・グンコト金鉱山を、カナダの巨大鉱業企業バリック・マイニング者から接収し、数億ドル規模の未払い税の支払いを要求している。