防衛動向
極超音速技術に対するブラジルの野望:航空宇宙技術革新の新星が台頭
ブラジルの極超音速技術への取り組みは、粘り強くも創造性に富んだ挑戦の軌跡であり、興味深い物語である。
![空中発射・地上目標攻撃用極超音速ミサイルのコンセプトイメージ。[Lockheed Martin]](/gc7/images/2025/08/21/51604-hyper-370_237.webp)
Global Watch発 |
極超音速技術が軍事力と航空宇宙分野の基盤技術として急速に注目される中、ブラジルは静かながらも確実に、この分野における有力な地位を確立しようとしている。
極超音速技術に関して、米国やロシア、中国、インドが注目されているが、 同技術におけるブラジルの進展は、同国の創造性と戦略的先見性の証と言える。
ブラジルの航空宇宙分野における野望の中心にあるのが、「14-X極超音速機体開発プログラム」である。これは、次世代のエアブリージング(吸気式)極超音速機体の開発を目指す国家的プロジェクトであり、2008年の立ち上げ以来、着実に成果を積み重ねてきた。その中核をなす技術実証機「14-XS」は2021年12月、初飛行に成功し、極超音速飛行実現に向けた大きな一歩となった。
この機体は、超音速燃焼や吸気式極超音速推進技術の実証を目的として開発されており、ブラジルが最先端の航空宇宙研究に注力していることを示す象徴的な存在である。
赤道に近いという地理的優位を活かしたアルカンタラ射場は、ブラジルの航空宇宙開発において極めて重要な役割を担っている。この立地により、ロケットの打ち上げ効率は大幅に向上し、燃料消費の削減や積載能力の向上が可能になる。この施設は、単なる発射施設にとどまらず、極超音速技術を含む宇宙開発分野で、ブラジルが世界的な宇宙競争の主役級プレイヤーへと成長する可能性を象徴する存在となっている。
ブラジルの野望は、先進軍事技術の製造に不可欠なレアアース鉱物の豊富な埋蔵量によってさらに増強されている。
防衛能力の強化へ向け加速
ブラジルは、世界のレアアース確認埋蔵量の約23%を保有するとされ、世界的なサプライチェーンにおいて重要な地位をしめている。しかし現在、ブラジルの生産量は、世界全体に対して、1%未満にとどまっている。その主な理由は、アマゾン地域など未探査地域へのアクセスの困難さにある。他国が戦略的にレアアースの確保に動き出す中、ブラジルが将来的に主要な供給源としての地位を築ける可能性が、国内外で注目され始めている。
ここ数カ月でブラジルは防衛能力の強化に向けて大胆な一歩を踏み出し、防衛産業への大規模な投資計画を承認した。その中で、「新ブラジル産業計画(Novo Brasil Industrial)」の一環として、技術的自立と産業の近代化を推進するため、約1129億レアル(約196億ドル)を投じることを決定した。
重点分野には航空宇宙、原子力エネルギー、セキュリティ機器が含まれ、特に極超音速ロケット開発プロジェクトに注力する。ブラジル政府は、2026年までに技術自立率を55%に引き上げ、2033年までに75%に引き上げることを目指している。
レアアース資源を巡る地政学的状況も、ここにきて劇的に変化している。米国が輸入依存と中国との技術覇権を巡る競争に直面する中、ブラジルの戦略的重要性は急速に高まっている。
米国がブラジル製品に課した最近の関税措置は、ブラジルによる自国要求の拒否に対応したものである。これは、世界的なレアアース市場における力関係の繊細なバランスを浮き彫りにしている。これに対し、中国はすみやかにブラジルを支持し、多国間貿易体制の重要性を強調している。こうした動きと相まって、ブラジルはこの極めて重要な分野におけるキープレーヤーとしての地位を一層確固たるものにしている。
ブラジルの極超音速技術の進展は、単なる軍事力の強化にとどまらず、革新と持続可能性を重視する広いビジョンを反映している。実際に、ブラジル空軍が国内開発のサブオービタル観測ロケット「VS-30」をバレイラ・ド・インフェルノ射場から成功裏に打ち上げたことは、その象徴的な一例である。このミッションでは、公立学校の生徒たちが書いた1,000通以上の手紙を搭載し、科学への関心や技術発展を次世代に継承しようとするブラジルの姿勢が鮮明に示された。
ブラジルが極超音速技術の開発をさらに継続的に進める中で、同国は世界的な航空宇宙分野における主要なプレイヤーとして台頭しつつある。独自技術の開発、戦略的な国際協力、そして地理的優位性が相まって、従来大国が支配してきた競争激しい分野において、同国は独自の立場を築きつつある。革新を追求し、国際舞台で存在感を示そうとする同国の決意は、世界中の新興国が抱く野望と深く共鳴する、力強い物語となっている。
ブラジルの極超音速技術への挑戦は、粘り強く創造性に富んだ歩みの物語である。世界的な航空宇宙分野の複雑な情勢を巧みに乗り越えながら、同国が着実に前進を続ける姿は、新興国であっても最先端技術の領域で確かな足跡を残すことが可能であるということを、世界に強く印象付けている。
ブラジルは、旗艦的な「14-Xプログラム」と、戦略的立地を活かしたアルカンタラ射場の活用を通じて、ブラジルは極超音速技術を巡るレースに単に参加するにとどまらず、独自のポジションを築きつつある。その歩みは、やがて同国の国際的役割を再定義する可能性を秘めている。