国際問題
フランス、欧州に対するロシアの情報操作に警鐘フランス、欧州に対するロシアの情報操作に警鐘
この情報操作工作は、NATO加盟国内の社会的分断をあおるロシアの広範な戦略の一環ともいえる。
![英国のキア・スターマー首相(左)とフランスのエマニュエル・マクロン大統領(中央)は、5月10日にキーウにある聖ソフィア大聖堂を訪問し、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領(右)の話を聞いた。今回の訪問に先立って、ヨーロッパ各国の指導者がウクライナ首都で会合を開いている。[リュドヴィック・マラン/AFP通信]](/gc7/images/2025/05/15/50411-france_russia-370_237.webp)
グローバル・ウォッチ/AFP通信 |
パリ発 --フランスは、欧州諸国の民主主義体制を揺さぶるとともにウクライナへの支援を後退させることを狙ったロシアによる情報操作工作が激化していることについて、警鐘を鳴らした最初の欧州諸国となった。
フランス当局は5月7日、2023年8月から2025年3月初旬までの間に、 ウクライナやフランスなどの欧州同盟国を標的にしたロシア主導の情報操作工作を 80件近く追跡していたことを明らかにした。
フランスの海外からのサイバー攻撃に対処する機関「ヴィジヌム(Viginum)」は、「この情報操作工作は、特に反ウクライナおよび反西側の物語を西側諸国の世論に広めるのに効果的だった」と指摘した。
「ストーム1516」と呼ばれる工作は人工知能(AI)を活用してリアルな人物プロフィールを作成し、素人工作員に報酬を支払って活動させている。これは「フランスだけでなく欧州各国におけるデジタル上の公共討論にとって重大な脅威となっている」と、ヴィジヌムは述べている。
フランスのジャン=ノエル・バロット外相はAFP通信に対し、「欧州の公共討論は、ロシアの関与する情報操作工作によって攻撃されており、特にアメリカの極右勢力がそれらを拡散している」と語った。その上で、ロシア関連勢力が2024年のフランス議会選挙を標的にしていたと付け加えた。
広がるロシアの戦略
ストーム1516は、クレムリンによる「情報戦争」の一環だと、ある外交筋がAFP通信に語った。
ヴィジヌムの報告書は、アメリカの極右インフルエンサーや、「ロシアに亡命した元フランス兵」のアドリアン・ボケなどの親ロシアのインフルエンサーが、虚偽情報の拡散を助長していると指摘した。
AFP通信のデジタル調査チームは、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が、ドイツにある旧ナチスの建物やフランスのクーシュベルにある高級ホテルを購入したとするなど、いくつかの虚偽情報を収集し、それらが事実ではないことを明らかにした。
ウクライナの西側の同盟国、特にフランスもまた標的となっていると、ヴィジヌムは指摘した。
虚偽情報対策組織「ニュースガード」は以前、チャド出身の移民がフランスで12歳の少女をレイプしたとされる虚偽の告白を記録した偽動画について、ロシア関連の情報操作グループ「ストーム1516」の関与を指摘していた。また別のAI生成動画では、エマニュエル・マクロン仏大統領の妻ブリジット・マクロン氏が性的暴行に関与したかのように捏造する報道がなされていた。
「ロシアの標的に」
この情報操作工作は、NATO加盟国内の社会的分裂をあおるロシアの広範な戦略を反映している。
——最近、クレムリンはイタリアに対するハイブリッド戦争戦術を強化し、 情報操作工作、サイバー攻撃、外交的な対立を組み合わせて展開し、イタリアのウクライナ支援姿勢を弱体化させ、欧州大西洋同盟内の結束に亀裂を生じさせようとしている。
ウクライナへの軍事的および財政的の最大の支援国ではないイタリアが標的となっているのは、大統領のセルジオ・マタッレラや首相のジョルジャ・メローニがキーウを積極的に支援しているためだ。メローニ首相はNATOとの強固な連携姿勢を示しており、他の多くの欧州右派指導者たちとは一線を画している。
イタリアの「ウクライナへの揺るがない支援、NATOおよび大西洋横断的関係との連携が同国を『モスクワの標的』にしている」と、国際政治を専門とするシニアアナリスト、エマヌエレ・ロッシ氏は、ワシントン拠点のシンクタンク「欧州政策分析センター(CEPA)」の3月5日の記事で指摘した。
ロシアがイタリアを揺さぶるための取り組みには、外交的な挑発や 国家が支援するプロパガンダ工作、疑わしいサイバー攻撃が含まれており、これはロシアのウクライナ侵攻に対する欧州諸国の結束を揺さぶるクレムリンの広範な戦略を浮き彫りにしていると、ロッシ氏は付け加えた。