防衛動向
自由航行の保護のため英国とフィリピンが防衛関係を強化
フィリピンの安全保障上の協力国は、すでにオセアニアから北米まで世界全体に存在している。話し合いがうまくまとまれば、英国もその一員となる可能性がある。
![7月、インド太平洋地域で実施された「ハイマスト作戦」で日没時に撮影されたHMSリッチモンド。[王立海軍/X]](/gc7/images/2025/10/22/52388-richmond-370_237.webp)
筆者:シリン・バンダリ |
英国とフィリピンは、提案されている訪問軍地位協定(SOVFA:Status of Visiting Forces Agreement)の交渉を開始することで合意した。両国の防衛上の協力強化に向けて、一歩前進したことになる。
現地メディアによると、この協定は、南シナ海で緊張が高まる中で、インド太平洋地域の安全保障環境に積極的に関与しようとする英国の意向を示すものだという。
中国は、南シナ海の80%以上に対して領有権を主張し、台湾を分離領土だとみなしている。
9月16日、マニラを訪問した英国国防省のヴァーノン・コーカー国務相が、ジョン・ヒーリー英国国防相からの書簡をフィリピンのギルベルト・C・テオドロ・ジュニア国防相に手渡し、SOVFAに関する協議が始まった。
![9月16日、キャンプ・アギナルドで写真に納まるフィリピンのギルベルト・C・テオドロ・ジュニア国防相と英国国防省のヴァーノン・コーカー国務相。この場でコーカー国務相は、防衛力に関する協定についての英国側の提案を記した書簡を手渡した。[フィリピン国防省]](/gc7/images/2025/10/22/52387-phl-uk_coop-370_237.webp)
この協定が締結されれば、合同軍事活動中に英国軍がフィリピンに一時的に駐留できるようになり、英国とフィリピンの防衛協力が拡大する。
テオドロ国防相は、防衛協力関係を正式に結ぶという英国の意向について、「これは、一国が西フィリピン海における我々の主張を支持しているという明確な表明だ」と述べた。
次に、フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領が正式な交渉を承認することで、SOVFAは次の段階に進む。
テオドロ国防相は、英国との「多くの相乗効果」について指摘している。
同国防相は、フィリピン下院で「英国は、インド太平洋地域との海洋領域の相互接続にも前向きだ」と述べている。
さらに、「我々も、協力関係を結ぶ訪問軍が増えていくことを望んでいる。なぜなら、このことが主権的権利、領土保全と主権、そして我々の掲げる価値観に対する最大限の支持の表明となるからだ」と付け加えた。
中国の反発
今回のSOVFAに関する発表は、HMSリッチモンドのマニラ寄港に合わせて行われた。
HMSリッチモンドは、インド太平洋地域で英国空母打撃群が展開する8か月間の「ハイマスト作戦」に参加しているフリゲート艦である。この打撃群は、アジアとその周辺地域で、演習や寄港を通じて30か国と交流している。
コーカー国務相は、フィリピン訪問中に「英国空母打撃群のインド太平洋地域への展開は、英国の安全保障と繁栄にとっての同地域の重要性を示すものだ」と述べている。
さらに同国務相は、「英国とフィリピンの連携はかつてないほど緊密になっている」とHMSリッチモンド上で語っている。
英国は今年後半に、多国間合同演習「サマサマ」に参加する予定だ。英国の参加は今回で4度目となる。
中国側はこれに対し、南シナ海における他国軍の展開が緊張を高め、中国の主権的権利を脅かすとして繰り返し警告を発している。
中国人民解放軍(PLA)東部戦区の施毅報道官は9月12日、米駆逐艦ヒギンズとHMSリッチモンドの台湾海峡通過を中国海軍と空軍が追跡したと発表した。
施報道官は「英米両国の行動は誤った信号を発し、台湾海峡の平和と安定を損なった」と述べている。
ロンドンの『タイムズ』によると、中国の戦闘機は英国フリゲート艦の周囲で「建設的殺傷」作戦を実施して実射を伴わない模擬攻撃を行い、中国の軍艦はHMSプリンス・オブ・ウェールズを含む艦隊を南沙諸島周辺で追尾したという。
拡大する協定のネットワーク
フィリピンは、中国という強大な国に対抗するため、二国間軍事協定のネットワークを構築してきた。
フィリピンはすでに日本、オーストラリア、ニュージーランドと協定を締結しており、カナダとも近日中に協定を締結する見通しだ。
5月には、米国の海兵隊が、台湾から約140km離れた北ルソン島とバタン諸島に、「シップキラー」と呼ばれる海軍・海兵隊遠征艦船阻止システムを配備した。
英国とフィリピンのSOVFAが締結されれば、英国はフランスに次いで、フィリピンとこうした協定を結ぶ2番目の欧州国となる。
コーカー国務相は、「英国とフィリピンの関係は強固であり、発展を続けている。我々はともに、平和で安定し、繁栄するインド太平洋地域を形作ることができる」と述べている。
一方で、フィリピン国防省は2026年度予算として2952億ペソ(51億ドル)を提案しており、その95%がフィリピン軍に投じられる予定だ。
承認された場合、予算の増加率が最も大きいのは海軍だ。今年度の510億ペソ(8億8000万ドル)の予算から、83億ペソ(1億4300万ドル)、つまり16.4%の増額となる。
テオドロ国防相は、近日中に海軍が新たに8隻のフリゲート艦を受領する予定であり、造船所やドックヤード施設の拡充が必要だと述べている。
また、テオドロ国防相は9月17日、フィリピン米国商工会議所の会員に「国家防衛の面から、本質的にフィリピンの抵抗力が必要不可欠だ。国が小さいほど、抑止力は強くなる」と語っている。